自分の脳がいま、どの程度健康で、将来どのくらい病気になりやすいのかを客観的に知ることは、これまで非常に困難でした。しかし、近年の研究により、食事、運動、睡眠といった生活習慣と、血圧、血糖、コレステロールなどの数値を統合して算出する「脳ケアスコア(Brain Care Score:BCS)」という指標が、脳の未来を予測する上で極めて有効であることが判明しました。
米国マサチューセッツ総合病院の研究グループが行った調査では、このBCSが高いほど(=健康的な生活習慣を維持しているほど)、将来の脳卒中や認知症の発症リスクが劇的に低下することが証明されました。具体的には、スコアが5ポイント上がるごとに、認知症リスクが約10%〜20%も減少するという結果が出ています。単に「気をつけています」という主観的な感覚ではなく、数値としてリスクを「見える化」することが、予防医学の新しいスタンダードになりつつあります。
なぜこのスコアが重要なのか。それは、脳の老化において「血管の健康」と「神経の健康」は表裏一体だからです。本人が気づかないうちに脳内の深い部分で起きる「隠れ脳梗塞」や、微小な血管の損傷は、積み重なることで認知機能をじわじわと蝕みます。BCSで高く評価される「低塩分の食事」や「定期的な有酸素運動」は、血管のしなやかさを保ち、これらのダメージを未然に防ぎます。
脳の神経細胞は、血管から供給される酸素と栄養がなければ1分1秒も生存できません。つまり、BCSを改善する日々の小さな努力は、脳という精密な組織を支える「インフラ整備」そのものなのです。高いスコアを維持することは、将来の大きな脳梗塞を防ぐだけでなく、人生の最期まで自分らしい思考と記憶を保ち続けるための、最も科学的な防衛策と言えるでしょう。
脳の健康管理を、個人の意志力だけで続けるのは大変なことです。当院のような専門外来では、MRIによる精緻な画像診断で現在の「血管の年齢」や「脳の容積」を評価し、そのデータに基づいた個別具体的なBCS改善アドバイスを提供しています。
現状を知ることは、決して不安を煽るためではなく、10年後、20年後に「あの時対策を始めてよかった」と確信していただくための、未来への前向きな投資です。科学的根拠に基づいた脳ケアスコアを意識した生活を、全世代の方々に改めて提唱いたします。
医師 菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献:Samanis G, et al. Neurology. 2024;102:e209355.
「もの忘れ」に関するお悩みは、当院の「もの忘れ外来」へお気軽にお越しください。
