当院でも診療を行っている久留米大学の菊池医師の研究チームは、農業や園芸活動が脳の老化を遅らせ、脳卒中や認知症の予防に役立つ可能性があることを明らかにしました。この研究では、定期的に農業・園芸活動を行っている高齢者161名を対象に、脳MRI検査や認知機能テストを実施し、活動を行っていない対照群と比較しました。その結果、農業・園芸活動群では脳の白質病変が少なく、脳卒中の発症率も低く、認知機能テストの成績も良好であることが確認されました。白質病変は脳組織への血流減少を示す指標であり、その減少は脳血管の健康状態が良好であることを意味します。
この研究で特筆すべき点は、農業・園芸活動が単なる運動効果以上の利益をもたらす可能性があることです。実験研究では、模擬的な農業・園芸活動を40分間行った後、参加者の血管の柔軟性が向上し、認知機能が向上し、さらに血液中の線溶系マーカーや脳由来神経栄養因子が増加することが確認されました。これらの変化は、一般的な運動と同等かそれ以上の効果を示しており、土いじりや植物の世話といった活動が脳の血流を改善し、神経細胞の健康を促進する可能性が示唆されています。介入研究では、週1回60~90分の農業・園芸活動を20週間継続することで、脳MRI上の白質病変の進行が抑えられる傾向が確認されました。
農業・園芸活動は、特別な設備や高度な技能を必要とせず、多くの方が日常生活に取り入れやすい活動です。家庭菜園での野菜栽培、花壇の手入れ、盆栽の管理など、様々な形で実践することができます。この研究結果は、認知症予防や脳血管疾患の予防において、身近で実践しやすい新しい選択肢を提供するものです。土に触れ、植物を育てる喜びを感じながら、同時に脳の健康を守ることができる農業・園芸活動は、高齢者の健康長寿を支える有効な戦略となる可能性があります。
医師 菊池清志
参考文献:Frontiers in Aging Neuroscience誌(2025年)、久留米大学による農業・園芸活動と神経血管老化に関する研究
「もの忘れ」に関するお悩みは、当院の「もの忘れ外来」へお気軽にお越しください。
Web予約