最近の研究※で、耳が聞こえにくくなる「難聴」が、中年期(おおよそ55歳以上)の方にとって、認知症のリスクを高める大きな原因の一つであることがわかってきました。では、どの程度耳が聞こえにくくなったら、補聴器を使い始めたほうが良いのでしょうか。この疑問に答える研究が、慶應義塾大学で行われました。 この研究では、55歳以上で、まだ補聴器を使ったことがない人と、3年以上補聴器を使っている人を対象に調査を行いました。耳の聞こえ具合(聴力)と、もの忘れや考える力(認知機能)との関係を調べたのです。
補聴器を使っていない人では、耳の聞こえにくさと認知機能の低下に関係があることがわかりました。特に、聞こえにくさの程度が「38.75デシベル(dB HL)」(聴力検査で測定される数値)を超えると、認知症のリスクが高まる可能性があることが示されました。
一方で、すでに補聴器を長く使っている人では、ご自身の耳の聞こえにくさと認知機能との間にはっきりとした関係は見られませんでした。つまり、補聴器を使うことで、認知症のリスクを下げられる可能性がある、という結果でした。
この研究からわかる大切なことは、耳の聞こえが悪くなってきたら、なるべく早めに耳鼻科で相談し、必要であれば補聴器を使い始めることが、将来の認知症予防につながるということです。特に聞こえの程度が38.75dB HLを超えている場合は、補聴器の使用を検討すると良いでしょう。
程度の目安としては、静かな環境でのささやき声や小さな声の聞き取りが困難に感じる、ざわついた環境での会話が聞き取りにくいといった場合です。
難聴は、自分では気づきにくいこともあります。家族や周りの人に「最近聞こえにくいのではないか」と指摘されたら、一度耳鼻科を受診することをおすすめします。補聴器は、聞こえを助けるだけでなく、認知症予防にも役立つ大切な道具です。早めの対応で、健康で安心した生活を続けましょう。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
※NPJ Aging誌2025年2月24日より