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画像解析コラム

【画像解析ノート】oxford_aslで「桁が違う」と焦った話

こんにちは。当院で画像解析を担当しているスタッフです。

当院では、MRI画像データの学術研究への活用を目指し、FSLなどのツールを用いた解析パイプラインの構築を行っています。私はまだまだこの分野の初学者ですが、試行錯誤する中で躓いたポイントや、解決できたことを、備忘録として少しずつ共有していきたいと思います。

今回は、当院で仕様しているSIEMENS社製MRIの4DASLデータを解析しようとした際に、Cerebral Blood Flow(CBF)の数値が大きな値となり、しばらく抜け出せなかった失敗談です。

解析結果の数値が…大きすぎる?

ASL(Arterial Spin Labeling)解析で脳血流量(CBF((ml/100g/min)))を出そうと、FSLの

oxford_asl を使ってパイプラインを組みました。

最初のテスト解析を回し、問題なくできたと思って出力されたマップの数値を確認したのですが、生理学的な正常範囲を遥かに超える、桁違いに大きな数値が出ていることに気づきました。 「Multi-PLDの設定ミス」「スタックされたM0の平均化処理がうまくいってない」など、何度もパラメータを見直しては再計算しましたが、結果は変わりませんでした。

原因は「10倍」のゲイン設定でした

論文やドキュメントを読み漁り、DICOMの値を一つ一つ確認して、ようやく原因にたどり着きました。それは、「M0画像のスケーリング」で、信号値そのものに「10倍のゲイン」がかかって保存されているという仕様があったのです。

これを知らずに、そのまま計算に回してしまっていたため、CBF値も桁違いのインフレを起こしていたわけです。

たどり着いた解決コマンド

「10倍されているなら、それを教えてあげればいいんだ」ということで、オプションを追加して解決しました。 以下が、今回仕様したMulti-PLD解析用コマンドです。

# SIEMENS ASL Analysis Pipeline
# Multi-PLD法を用いた解析コマンド

oxford_asl \
  -i asl_data.nii.gz \
  -o output_asl \
  --iaf tc \
  --tis 0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.4,1.6,1.8,2.0,2.3,2.6,2.9,3.2,3.5,3.8,4.0 \
  --bolus 1.8 \
  --casl \
  --wp \
  --cgain 10 \
  -c m0.nii.gz \
  --fslanat t1.anat \
  --spatial

学んだポイントと、最終的な解析結果

このコマンドを作る過程で、大きく2つの学びがありました。

1.-cgain 10 の重要性

これが今回のポイントでした。「Calibration Gain」を

10 に設定することで、ツール側で適切に補正計算をしてくれます。

2.事前の準備(fsl_anat)

コマンド内の-fslanat t1.anat も重要です。正確な解析には、事前にT1構造画像を処理しておく必要があると知りました。

そして、最終的なゴールである「Harvard-Oxfordアトラスへの重ね合わせとROI解析を行った結果がこちらです。 無事にCSV形式で各領域の定量値を算出することができました。

Type,Label_ID,Anatomical_Location,CBF_Left,CBF_Right
Cortical,1,"Frontal Pole",32.408439,33.836246
Cortical,2,"Insular Cortex",38.832329,43.768423
Cortical,3,"Superior Frontal Gyrus",30.852066,32.002821
...
Subcortical,15,"Right Thalamus",45.597394,
Subcortical,19,"Right Hippocampus",41.219100,
...
Cortical,45,"Heschl's Gyrus",55.886344,59.408184

ご覧の通り、Frontal Pole、Thalamus、Hippocampusなどの主要な部位において、概ね 30〜45 ml/100g/min 前後の値が得られています。

もし、10倍のゲインに気づかないままであれば、これらの値が「300〜400」という異常値になっていたはずです。  こうして生理学的に妥当な数値データとして出力されたのを見たとき、ようやく安心することができました。

CBF画像に右半球のHarvard-Oxford Cortical Atlasをオーバーレイしたもの(MNI152に標準化済)

最後に:とても勉強になりました

今回の件は、「ツールさえ回せば結果が出る」わけではなく、メーカーごとのデータ仕様や、最終的な解析の目的(ROI取得など)を見据えて処理を組むことの重要性を痛感する良い機会となりました。原因究明までは大変でしたが、仕組みがわかって綺麗に解析できた瞬間はとても嬉しく、本当に勉強になりました。まだまだ学ぶことばかりですが、経験を積み重ねて、信頼できるデータを作れるようになりたいと思います。

今後も、こうした解析の裏話や、学んだ技術的なトピックを、不定期ではありますがコラムに書いていこうと思います。

研究者の皆様へ

もしよろしければ、当院のMRIを先生方の「第二の研究室」として活用してみませんか?

 臨床機としての稼働はもちろんですが、こうした定量解析を含めた研究目的でのご利用も広く受け付けております。


本コラムに掲載されているコードや解析手法は、特定の環境(MRI装置、ソフトウェアバージョン等)における検証結果に基づく、個人の学習メモおよび技術情報の共有を目的としています。すべての環境での動作や解析結果の正確性を保証するものではありません。本記事の内容を用いて行われた解析等により生じたいかなる損害・不利益についても、当院は責任を負いかねますのでご了承ください。実際の運用にあたっては、各施設の環境に合わせて十分な検証を行ってください。

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