Premenstrual Dysphoric Disorder

月経前不快気分障害(PMDD)

PMDDとは

月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)とは、月経前に繰り返し現れる重度の感情的および身体的症状を特徴とする疾患であり、女性の日常生活や社会的活動に大きな支障をもたらしています。アメリカ精神医学会による診断基準(DSM5)を見てみると、症状としては、感情の不安定さ、強いイライラ感、気分の落ち込み、不安、興味の減退、集中困難、倦怠感、食欲・睡眠状態の変化、その他の身体症状などがあげられており、これらのうち少なくとも5つの症状が、月経開始前最終週に認められ、月経が始まると軽快するなど明らかに月経周期と関連しており、日常生活に支障をもたらしている場合に、PMDDと診断されます。同様の診断名として、月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)や月経困難症がありますが、PMSはPMDDと同様の症状を認めるが、症状の数が5つに満たないもの、月経困難症は月経に苦痛を伴うが、感情変化などの精神症状を伴わないものとして区別されています。当院ではDRSP(Daily Record of Severity of Problems)という症状評価尺度を用いて、月経に関連して毎日の症状がどのように変わるかを記録してきてもらい、診断の参考にしています。

このような月経周期に関連した心身の症状については、古代エジプトのパピルスや古代ギリシャの医師ヒポクラテスの著作にも記述が見られるなど、古くからその問題が知られています。PMDDと診断される方の生活は、月経周期に関連して否応なしに引き起こされる気分変動や不安、易怒性の亢進などにより大きく振り回されており、社会的活動、日常生活ともに支障を来していると考えられます。生殖年齢の女性の約3〜8%が影響を受けており(Dennerstein et al., 2012)、自殺率が高くなることも知られており、社会的損失は非常に大きいことも分かっています(Machado et al., 2024)。

PMDDの原因

何故一部の女性にだけ月経に関連してPMDDと診断されるほどの重度の症状が現れるかについては、実はまだよく分かっていません。当然、月経に際して大きく濃度が変化するエストロゲン、プロゲステロンなどのホルモンが何らかの影響を与えていると考えられていますが、単純に一回の検査で、どのホルモンが高いから(もしくは低いから)PMDDの症状が強いなどと言うことはできないようです。むしろ、ホルモンの濃度変化が大きいことが症状の発現と関連している可能性が示唆されています(Schmidt PJ, et al., 2017)。また、どの症状が優勢であるかによって関連するホルモンも違う可能性も指摘されており、例えば易怒性や気分変動はプロゲステロンとの関連が比較的強く、悲哀感や不安はエストロゲンとプロゲステロンの双方で誘発され得ることを指摘した研究もあります。また、機能的MRIを用いた研究では、DLPFC(背外側前頭前野:Dorsolateral Prefrontal Cortex)やACC(前部帯状回 / Anterior Cingulate Cortex)の調節異常などが症状の発現と関連している可能性が示唆されています。

月経周期と女性ホルモンの変化のグラフ

PMDDの治療

PMDDの治療薬としては、抗うつ薬や一部の漢方薬、もしくはホルモン補充療法などが試みられていますが、今のところ確立されたものはありません。抗うつ薬については、うつ病の治療に使う場合では、通常2週間以上服用して初めて治療効果が得られるのに対し、PMDDに対して使う場合は、黄体期のみの服用で有効である場合があるなど、うつ病とは異なる作用機序が働いていることが示唆されています(Dubol M, et al,2026など)。また、必然的に妊娠、子育て世代の患者が多いことで、胎児、母乳への影響を避けるため、薬物治療以外の治療法に対する必要性は非常に高いですが、現在確立された治療法はありません。MRIや脳波を用いてリアルタイムで自分の脳の状態を被験者に呈示しながら、脳の状態をより安定した方向に誘導するというニューロフィードバックという手法が注目されており、PMDDに対してもいくつか先行研究はありますが、実用にいたる水準の知見は得られていないようです。

当院では2025年より、日本学術振興会からの研究費を得て、「月経前不快気分障害における非薬物的治療の可能性を見据えた脳画像研究 」を行っております。この研究では、黄体期と卵胞期の両方でホルモンの採血検査と脳の機能的MRI撮像を行い、ホルモンの動態と脳の活動との関連を調べています。また、脳波を用いたニューロフィードバックを行うことで、症状の改善が得られるか、またその後にホルモン動態と脳の活動の関連が変化するかについても検討を行います。研究への参加に興味がある方は、当院までお問い合わせ頂けますと幸いです。