片頭痛という疾患は、一般的に女性の病気というイメージが非常に強く定着しています。実際に医療機関を訪れる患者様の男女比を見ても女性が圧倒的に多く、ホルモンバランスの変動と密接に関連する月経関連片頭痛などがよく知られているため、男性の片頭痛が見過ごされたり、その深刻さが過小評価されたりする傾向が少なからずありました。しかし、日本人成人の片頭痛患者様を対象とした過去最大規模の調査から、私たちがこれまでに抱いていた常識を覆すような、男性患者様が置かれている非常に深刻な実態が明らかになりました。
膨大なデータを精査した結果、痛みの強度の比較において、なんと男性患者の方が女性よりも有意に痛みのレベルが高い(男性57.1対女性54.9)という驚きの結果が示されたのです。一方で、1回あたりの痛みが続く持続時間については、男性の方が有意に短い(男性6.3時間対女性7.9時間)という特徴的な違いも見出されました。さらに深刻なのは、頭痛の発作が起きていない、いわゆる「発作間欠期」における精神的な疾患負担において、男性の方が高い数値を記録したという点です。男性の片頭痛は、痛みの瞬間的なエネルギーが非常に強く、発作が終わった後も「またあの激痛が襲ってくるのではないか」という強い不安や負担を心に引きずりやすい性質があると考えられます。
この研究において、もう一つクローズアップされたのが、社会的・経済的な基盤である「就労」への多大なる悪影響です。片頭痛が仕事に及ぼす支障度を検証したところ、頭痛による欠勤率、出勤していても体調不良のために労働生産性が著しく低下する「プレゼンティーイズム」、そしてこれらを総合した就労障害のいずれの指標においても、男性患者の方が女性よりも有意に高い負担を抱えている現実が数字として冷徹に示されました。背景を詳細に分析すると、男性患者はアルコールの摂取、不規則な食事のタイミング、あるいは休日の過度な運動といった、日頃のライフスタイルに関連する頭痛の誘発因子を女性よりも格段に多く報告しているという特徴が見えてきます。仕事のプレッシャーや不規則な生活が、男性の片頭痛をより重症化させている可能性が否定できません。
頭痛外来の診察室においても、男性の患者は「仕事が忙しくて休めないから、強い薬でなんとか痛みをねじ伏せてほしい」と無理を重ねられているケースが少なくありません。単に痛みを抑える頓服薬を服用するだけでなく、お酒の量や食事の時間、適切な運動量といった生活習慣への丁寧な介入を組み合わせることで、初めて疾患負担の根本的な軽減が達成されます。働き盛りの男性だからこそ、頭痛外来という専門の窓口を上手に頼り、未来の健やかなキャリアと快適な毎日を守るための確実な一歩を踏み出していただきたいと願っています。
医師 菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献:日本人男性片頭痛患者、女性より痛み強く就労障害も大きい. The Journal of Headache and Pain. 2026(5)誌掲載の横断的集団ベースウェブ調査データ解析
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