睡眠不足が脳の健康に良くないことは直感的に知られていますが、カロリンスカ研究所(スウェーデン)の研究グループが、質の低い睡眠が「脳の老化」を物理的に加速させる可能性を、大規模なデータで示しました。
この研究は、英国のUKバイオバンクに参加した2万7,500人のデータを分析したものです。参加者の睡眠の質は、「朝型である」「睡眠時間が7~8時間」「不眠がない」「いびきをかかない」「日中の過度な眠気がない」という5つの健康的な睡眠特徴に基づき、0~5点でスコア化されました。
そして、平均8.9年間の追跡後に脳MRIを撮影し、AIモデルを用いて推定した「脳年齢」と、実年齢との差である「脳年齢ギャップ(BAG)」を算出しました。
分析の結果、健康的な睡眠スコアが低い人ほど、脳年齢ギャップ(BAG)が有意に大きい、つまり「脳の老化が実年齢以上に進んでいる」ことが明らかになりました。
具体的には、健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに、脳年齢は実年齢より約0.48年(約6ヶ月)高く推定される傾向が認められました 。 睡眠パターンを3群(健康的・中間・不健康)に分類して比較すると、「健康的」な睡眠パターンの人と比べて、「不健康」(スコア0~1点)な睡眠パターンの人では、脳年齢ギャップが0.50年(半年)も大きいという結果でした。
研究者は、「睡眠不足の人の脳は、脳年齢が実年齢より平均で1歳進んでいるようだ」とコメントしています。
研究グループはさらに、この「睡眠不足」と「脳の老化」をつなぐメカニズムについても調査しました。その結果、血液検査で評価した全身の炎症レベル(INFLAスコア)が、この関連性の約7~10%を媒介していることが示されました。
これは、睡眠の質が低いと全身の炎症が引き起こされ、その慢性的な炎症が脳に悪影響を及ぼし、結果として脳の老化を加速させている、というプロセスが一部関与している可能性を示唆しています。
研究者らは、睡眠不足が、睡眠中に活発になる「脳の老廃物除去システム」を阻害する可能性も指摘しています。これにより、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβやタウタンパク質が脳内に蓄積しやすくなることも考えられます。
この研究は、睡眠の質の低下が脳の老化と関連することを示しましたが、直接的な因果関係を証明したものではありません。しかし、睡眠の質は生活習慣によって改善が可能なものです。「より健康的な睡眠によって脳の老化の加速、ひいては認知機能の低下さえも防ぐことができる可能性がある」という研究者の言葉は、日々の睡眠を見直すことの重要性を強く示しています。
医師 菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Miao Y, et al. EBioMedicine. 2025;120:105941.
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