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脳卒中後の認知症リスク -早期発症と遅発症で異なる危険因子-|福岡博多の即日MRI・もの忘れ外来

脳卒中サバイバーが直面する認知機能低下のリスク

脳卒中は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳出血」の総称で、一命をとりとめた後も、麻痺や言語障害などの後遺症が残ることがあります。しかし、脳卒中の影響はそれだけにとどまりません。脳卒中を経験した人は、その後に認知機能が低下し、「脳卒中後認知症(PSD)」を発症するリスクが高いことが知られています。PSDの発症率は、脳卒中後1年以内で5〜40%、5年以内では8〜80%と報告されており、その予防は非常に重要な課題です。

これまで、PSDのリスク因子として、高齢であること、脳卒中そのものが重症であること、過去に脳卒中の経験があること、そして特定の遺伝子(ApoE-ε4)を持つことなどが知られていました。しかし、PSDが脳卒中後すぐに発症するのか、あるいは数年経ってから発症するのかによって、その背景にあるメカニズムや危険因子が異なるのではないか、という点は十分に解明されていませんでした。

この課題に取り組むため、ドイツの研究チームが「DEMDAS」という前向きコホート研究を実施し、PSDを早期発症例(脳卒中後3〜6ヶ月以内)と遅発発症例(6ヶ月以降)に分けて、それぞれの危険因子を詳しく調査しました。

早期発症と遅発発症、それぞれの危険因子プロファイル

この研究では、ドイツの脳卒中センターに入院した736人の脳卒中患者が、最長5年間にわたって追跡調査されました。その間に55人がPSDを発症し、そのうち21人(38.2%)が早期発症、34人(61.8%)が遅発発症でした。

両グループに共通する危険因子は、「74歳以上であること」「脳卒中急性期に既に認知機能障害があること」「脳卒中の重症度が高いこと(NIHSSスコアが3点以上)」でした。これらは、脳卒中による脳へのダメージそのものが大きい場合に、早期から認知症が顕在化することを示唆しています。

しかし、発症時期別に詳しく見ると、危険因子のプロファイルは明確に異なっていました。 早期発症PSDで特に強い関連が見られたのは、「心房細動」や「脳卒中の既往歴」といった、脳卒中の直接的な原因や脳へのダメージの蓄積に関連する因子でした。

一方で、遅発発症PSDで新たに見出された危険因子は、「教育期間が短いこと」に加え、「メタボリックシンドローム」「HDL(善玉)コレステロールが低いこと」「中性脂肪(トリグリセライド)が高いこと」といった、心代謝系の危険因子でした。また、脳のMRI画像で観察される「白質高信号域(WMH)」の容積が大きいことも、遅発発症のリスクと関連していました。

脳の健康を守るための長期的な生活習慣管理の重要性

この研究結果は、脳卒中後の認知症予防において、非常に重要な示唆を与えてくれます。早期発症のPSDは、脳卒中そのものの重症度や原因に大きく左右されるため、まずは脳卒中の再発予防(心房細動の管理など)を徹底することが最優先となります。

一方で、遅発発症のPSDは、脳卒中というイベントをきっかけに、それまで水面下で進行していた動脈硬化や生活習慣病の影響が、数年かけて認知機能の低下として現れてくるプロセスと考えられます。つまり、脳卒中後の長期的な予後を見据えた場合、血圧や脂質、血糖値といった心代謝系の危険因子を継続的に管理し、生活習慣を改善していくことが、将来の認知症を防ぐ上で極めて重要になるのです。

研究者らは、「PSD発症予防には、心代謝系危険因子の継続的な管理とモニタリングが有用と考えられる」と結論付けています。脳卒中を経験された方は、急性期の治療やリハビリテーションが終わった後も、決して安心することなく、かかりつけ医と連携しながら、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの管理を地道に続けることが、未来の脳の健康を守る鍵となります。

医師 菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。 

参考文献: Filler J, et al. Lancet Reg Health Eur. 2025; 56: 101428.

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