ズキンズキンと脈打つような強い頭痛を繰り返す「片頭痛」は、多くの人々の生活の質(QOL)を著しく低下させる疾患です。吐き気や光・音への過敏さを伴うこともあり、発作が起きると仕事や家事が手につかなくなってしまいます。
片頭痛の治療には、発作が起きた時に症状を和らげる「急性期治療」と、発作そのものを起こりにくくする「予防療法」があります。予防療法にはいくつかの薬が用いられますが、効果が不十分であったり、副作用のために継続が難しかったりするケースも少なくありません。そのため、薬物治療以外の補完的なアプローチ、特に栄養補助食品(サプリメント)の活用に注目が集まっています。
そんな中、海外のナラティブレビュー(特定のテーマに関する文献をまとめ、著者の視点から解説する論文)で、「コエンザイムQ10」が片頭痛の予防に有効である可能性が示されました。コエンザイムQ10は、もともと私たちの体内に存在し、細胞がエネルギーを作り出す過程で重要な役割を果たす補酵素です。
片頭痛の病態には、脳の血管周囲で起こる「神経原性炎症」や、細胞のエネルギー工場である「ミトコンドリア」の機能障害が関与していると考えられています。コエンザイムQ10は、強力な抗酸化作用を持ち、体内の炎症を抑える働きがあることが知られています。
レビューの中で紹介されているランダム化比較試験(RCT)では、1日に400mgのコエンザイムQ10を3ヶ月間摂取したグループで、TNF-αやCGRPといった炎症や痛みに関連する物質が血液中で有意に低下し、それに伴って片頭痛の発作の頻度や強さも改善したと報告されています。
また、別の研究では、コエンザイムQ10の摂取によってミトコンドリアの機能が改善し、エネルギー産生が促進されるとともに、疲労物質である乳酸の蓄積が抑制されることが示されました。そして、血中の乳酸値の低下とともに、頭痛の頻度や持続時間も有意に減少したのです。これらの結果は、コエンザイムQ10が、片頭痛の根底にある複数の病態にアプローチすることで、予防効果を発揮する可能性を示唆しています。
コエンザイムQ10の大きな利点の一つは、その安全性の高さです。レビューでは、小児や思春期の片頭痛患者を対象とした研究も紹介されており、体重に応じた量のコエンザイムQ10を投与することで、発作の回数、持続時間、強さのすべてに有意な改善が見られ、副作用もほとんどなかったと報告されています。長期的な使用が見込まれる若い世代にとって、これは非常に有望な選択肢と言えるでしょう。
さらに、心理的な側面への効果も報告されています。ある研究では、コエンザイムQ10を含むサプリメントの摂取により、片頭痛に伴う光・音過敏や吐き気だけでなく、不安や抑うつのスコアまでもが改善しました。片頭痛がQOLに与える複合的な影響を考えると、この点は非常に価値が高いと言えます。
日本神経学会が作成した「頭痛の診療ガイドライン2021」においても、コエンザイムQ10は、マグネシウムやビタミンB2などとともに、「ある程度の片頭痛予防効果を期待できる」非薬物療法の一つとして紹介されています。重篤な副作用が少なく、比較的安価であることから、「予防薬の選択肢として考慮してもよい」と位置づけられています。
もちろん、サプリメントの効果には個人差があり、マグネシウムなど他の成分と併用されている研究も多いため、コエンザイムQ10単独の効果を評価するにはさらなる検証が必要です。しかし、薬物治療に抵抗がある方、妊娠・授乳中で薬の使用が制限される方、あるいは既存の治療で効果が不十分な方にとって、コエンザイムQ10は試してみる価値のある、安全で実用的な補完療法の一つと言えるでしょう。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
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