認知症の患者さんを介護する方々は、大切な人を支えるという、精神的にも肉体的にも負担の大きな役割を担っています。しかし、新しい研究により、こうした認知症介護者の方々が、そうではない一般の方々と比べて、認知症につながる可能性のある生活習慣因子をより多く抱えている傾向にあることが明らかになりました。これは、米国アルツハイマー病協会とミネソタ大学が共同で行った「認知症介護者における認知機能低下のリスク因子」と題された研究で示されたものです。連邦公衆衛生機関が米国の47州から収集した2021年から2022年の介護者の健康データを分析した結果、認知症介護者が、喫煙、高血圧、睡眠不足、糖尿病、肥満といった認知機能の低下につながる可能性のあるリスク因子をより多く保有していることが分かったのです。この研究では、運動不足については介護者の方が該当者が少なかったのですが、これは、介護という行為自体の身体的な負担が大きいためではないかと考えられています。
興味深いことに、こうした健康リスクを複数抱える傾向は、45歳未満の比較的若い認知症介護者で特に顕著でした。同年代の一般の方々と比較して、リスク因子を複数持つ人の割合が40%も高く、喫煙率や高血圧、睡眠不足の割合も高いことが判明しました。この結果は、米国アルツハイマー病協会のMatthew Baumgart氏が指摘するように、「認知症介護者の脆弱性」を明確に示すものです。介護に追われる多忙な日々の中で、ご自身の健康管理がおろそかになってしまう現状がうかがえます。
専門家は、今回の分析結果が公衆衛生分野にとっての「警鐘」となり、認知症介護者の方々の健康問題に取り組むための具体的な戦略策定を促すきっかけになるべきだと述べています。認知症介護者の方々が心身ともに健康でいられるよう、社会全体で支えていく体制が求められています。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献:Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.