脳卒中を経験された方々の多くが、その後の生活でうつや不安といった心の不調に悩まされることがあります。これは、脳梗塞そのものが精神的な負担となるだけでなく、身体機能の変化が社会生活に影響を与えるためと考えられます。英国で行われた新しい研究は、このような脳卒中後の心の不調に対して、「トーキングセラピー(会話療法)」が有効であることを示しています。
この研究は、英国国民保健サービス(NHS)が提供する「不安と抑うつのためのトーキングセラピー」という無料のサービスを利用した脳卒中経験者約7,600人のデータを分析したものです。その結果、セラピーを受けた脳卒中経験者の7割以上で、うつや不安の症状が大幅に改善し、半数近くが完全に回復したことが分かりました。
トーキングセラピーは、認知行動療法(CBT)やカウンセリングを通じて、患者さんが自身の考え方や感情を整理し、心の不調を乗り越える手助けをする心理療法です。この研究では、脳卒中後の早い段階でトーキングセラピーを始めるほど、より良い結果につながることも明らかになりました。研究者である英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJae Won Suh氏は、脳卒中後の患者さんを診る医師が、できるだけ早く心理療法へとつなげることが重要であると述べています。今回の研究は、脳卒中を経験した方々の心の健康が、身体の回復と同じくらい大切であることを示唆しています。脳梗塞後の身体的なリハビリテーションだけでなく、心のケアも同時に行うことで、より質の高い生活を送るためのサポートが期待できるでしょう。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Suh JW, et al. Nat Ment Health. 2025;3:626-635