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脳卒中予防の新たな可能性 スタチンがくも膜下出血リスクを低減

脳卒中の中でも、脳動脈瘤の破裂によって突然発症する「くも膜下出血」は、命に関わる非常に危険な病気です。この致死率の高い病気のリスクを、広く使われているコレステロール治療薬「スタチン」が低減させる可能性を示唆する、日本の研究結果が報告されました。

スタチン使用とくも膜下出血リスクの有意な低下

東京理科大学の研究グループは、日本の大規模な診療報酬請求(レセプト)データベースを用いて、くも膜下出血を発症した患者さんと、発症していない人々を比較する研究を行いました。その結果、コレステロールを下げるためにスタチンを服用している人は、服用していない人と比べて、くも膜下出血を発症するリスクが約19%低いことが明らかになりました。

この結果は、年齢や性別、その他の病気の影響などを統計的に調整した上でも確認されており、スタチンの使用がくも膜下出血の予防に直接的に寄与している可能性を示しています。

特に高血圧や脳血管疾患の既往がある人で効果が顕著

さらに興味深いことに、このスタチンによる予防効果は、すべての人に一様に見られるわけではありませんでした。特に、高血圧を持つ人や、過去に脳梗塞などの脳血管疾患を経験したことのある人において、その効果がより顕著であることがわかったのです。これらの人々はもともと血管に負担がかかりやすく、動脈瘤ができやすい、あるいは破裂しやすい状態にあると考えられます。スタチンは、こうしたハイリスクな状態にある人々の血管を保護することで、より大きな予防効果を発揮しているのかもしれません。

スタチンは、単に血液中のコレステロール値を下げるだけでなく、血管の壁で起こる炎症を抑えたり、血管の内側を覆う細胞の機能を改善したりする「多面的効果」を持つことが知られています。こうした作用が、脳動脈瘤を安定化させ、破裂という最悪の事態を防ぐことにつながっている可能性があります。この研究は、脳卒中予防におけるスタチンの新たな役割に光を当てるものと言えるでしょう。

菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。 

参考文献: Hagiwara M, et al. Statin Use and Risk of Subarachnoid Hemorrhage: A Case-Control Study. Stroke. 2025 Jul 8.