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ワクチン接種が脳を守る インフルエンザ予防と認知症リスクの新たな関連

冬に流行するインフルエンザの予防接種が、呼吸器疾患の重症化を防ぐだけでなく、将来の認知症リスクを低減させる可能性があるとしたら、どうでしょうか。これまでも両者の関連は示唆されてきましたが、近年の大規模なデータ解析により、その関係性がより明確になってきました。

ワクチン接種回数と認知症リスクの用量反応関係

台湾の研究チームが、これまでに発表された8つの大規模研究(対象者合計約1,000万人)のデータを統合して分析する「メタ解析」を行いました。その結果、インフルエンザワクチンの接種回数と認知症の発症リスクとの間に、「用量反応関係」、つまり接種回数が多ければ多いほどリスクが低くなるという明確な傾向が確認されました。

特に、慢性腎臓病や心血管疾患など、もともと認知症になるリスクが高いとされる人々においては、その効果が顕著でした。このグループでは、ワクチンを2〜3回接種した人で認知症リスクが16%低下し、4回以上接種した人では、リスクが57%も低下するという非常に強い関連が見られたのです。

感染予防が脳の炎症を防ぎ認知症を遠ざける

なぜインフルエンザワクチンが認知症予防につながるのでしょうか。そのメカニズムとして、「脳の炎症」がキーワードになると考えられています。インフルエンザウイルスに感染すると、体はウイルスを排除するために強い免疫反応を起こし、全身に炎症が生じます。この炎症反応が脳にも波及し、脳細胞にダメージを与えたり、神経の働きを乱したりすることで、長期的に認知機能低下の引き金になる可能性があるのです。

インフルエンザワクチンを接種することは、感染そのものを防いだり、感染しても症状を軽く済ませたりすることにつながります。これにより、体内で過剰な炎症反応が起こるのを未然に防ぎ、間接的に脳をダメージから守っていると考えられます。定期的なワクチン接種は、感染症対策というだけでなく、私たちの脳を長期的なリスクから守るための重要な健康習慣と言えるかもしれません。

菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。 

参考文献: Yang WK, et al. Association between influenza vaccination and dementia risk: a systematic review and meta-analysis. Age Ageing. 2025;54:afaf169.