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耳鳴りの研究から見えたもの忘れや認知症のリスクを減らす食事の提案

私たちの健康は、日々の生活習慣、特に食事と深く結びついています。年齢とともに気になってくる「もの忘れ」や、多くの人が経験する「頭痛」といった症状は、生活の質に大きく影響します。これらの身近な悩みは、実は脳の健康状態と無関係ではありません。そして、耳鳴りのような一見すると脳とは関係がなさそうに思える症状でさえ、脳の血流や神経の働きと関連している可能性が指摘されています。

近年の研究では、特定の食品を積極的に摂ることが、私たちの身体に良い影響を与えることが分かってきました。今回は、食事が私たちの脳や神経の健康にどのように貢献するのか、最新の研究結果を交えながら解説し、健やかな毎日を送るための食生活を提唱します。

もの忘れや認知症対策の鍵となる脳の血流と食事

脳が正常に働くためには、十分な酸素と栄養が必要です。それらを運ぶのが血液であり、脳の血流を良好に保つことは、もの忘れや認知症の予防において非常に重要です。血管の健康を損なう要因として、体内の過剰な炎症や酸化ストレスが知られていますが、日々の食事がこれらの要因に働きかけることが期待されています。

最近、約30万人を対象とした複数の研究を統合した大規模な解析が行われ、食事と耳鳴りの関係について興味深い結果が報告されました。その研究によると、特定の食品を多く摂取する人は、耳鳴りの発症リスクが低いことが示されたのです。

具体的には、

  • 果物をよく食べる人: リスクが約35%低下
  • 乳製品をよく摂る人: リスクが約17%低下
  • 食物繊維を豊富に摂る人: リスクが約9%低下

という内容でした。これらの食品には、抗酸化作用や抗炎症作用を持つ成分が豊富に含まれています。こうした作用は、耳の内部だけでなく、全身の血管、特に脳の細い血管を守ることにもつながると考えられます。つまり、耳の健康に良い食生活は、脳の血流を健全に保ち、もの忘れや認知症のリスクを低減させる可能性を秘めているのです。

頭痛や脳梗塞の予防にもつながる日々の食生活

頭痛、特に片頭痛などは脳の血管の働きと関連があると考えられています。また、脳梗塞は脳の血管が詰まることで起こる深刻な病気です。これらの予防においても、血管をしなやかに保つ食生活が基本となります。

先ほどの研究で注目された果物や乳製品、食物繊維は、まさに日々の食事で意識したい食品群です。例えば、果物にはビタミンやポリフェノールといった抗酸化物質が、野菜や海藻、きのこ類に含まれる食物繊維には、腸内環境を整え、体内の炎症を抑える働きが期待できます。乳製品は、良質なたんぱく質やカルシウムの供給源となります。

これらの食品を日々の食事にバランス良く取り入れることは、特別なことではありません。朝食にヨーグルトや果物を一品加える、昼食や夕食で意識して野菜やきのこの入ったお惣菜を選ぶ、といった小さな工夫から始められます。

また、興味深いことに、従来は耳鳴りを悪化させると考えられていたカフェインについても、この研究ではむしろリスクを約10%低下させる可能性が示されました。もちろん、過剰な摂取は禁物ですが、適度な量のコーヒーやお茶を日常的に楽しむことは、一概に悪いとは言えないようです。

これらの研究結果は、特定の食事が病気を完全に防ぐことを保証するものではありません。しかし、私たちの身体と脳の健康を長期的に支える上で、食生活が重要な役割を担っていることを力強く示唆しています。健やかな脳を保ち、もの忘れや頭痛、さらには認知症や脳梗塞といった病気のリスクを減らすための一歩として、日々の食卓を見直してみてはいかがでしょうか。

菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。

 参考文献:Association of 15 common dietary factors with tinnitus: a systematic review and meta-analysis of observational studies