特定の病気の治療のために長期間服用する薬が、私たちの脳機能にどのような影響を与えるのか、関心が高まっています。特に、神経の痛みやしびれ、むずむず脚症候群などの治療に広く用いられている「ガバペンチン」という薬について、その使用と認知症のリスクとの関連を調査した研究が報告されました。
米国の研究グループが、大規模な医療データベースを用いて腰痛患者のデータを分析したところ、ガバペンチンを長期間(6回以上)処方された人は、処方されていない人と比べて、その後の認知機能に違いが見られました。
具体的には、ガバペンチンを処方されたグループでは、認知症を発症するリスクが約1.29倍、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)を発症するリスクが約1.85倍高いという結果でした。ガバペンチンには神経細胞間の情報伝達を抑制する作用があり、この作用が長期的に認知機能へ影響を及ぼしている可能性が考えられます。
さらに詳しく分析すると、このリスクの上昇は65歳以上の高齢者よりも、65歳未満の比較的若い世代でより顕著に見られる傾向がありました。また、薬の処方回数が多いほどリスクは高まり、12回以上処方された人では、3回から11回処方された人と比べても、認知症やMCIのリスクがさらに上昇していました。
ただし、この研究はあくまで観察研究であり、ガバペンチンの使用が認知機能低下の直接的な原因であると断定するものではありません。薬を必要とする背景の病状自体が、認知機能に影響を与えている可能性も考えられます。しかし、しびれや痛みの治療でこの薬を服用している方は、自身の「もの忘れ」など認知機能の変化に少し注意を払うことが大切です。不安な点があれば、自己判断で薬をやめるのではなく、処方している医師に相談し、脳の健康についても情報を共有することが重要です。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Eghrari NB, et al. Association between gabapentin prescription and risk of dementia and mild cognitive impairment: a retrospective cohort study. Reg Anesth Pain Med. 2025 Jul 10. [Epub ahead of print]