これまでの研究で、中年期(働き盛りの年代)の高血圧は認知症やもの忘れなどの「認知機能の低下」のリスクになることがわかっています。一方で、高齢者になると少し状況が変わってきます。日常生活で介助が必要な高齢者では、血圧が高めの方の認知機能が低下しにくいという報告もあります。
このように、血圧の薬(降圧薬)と認知機能の関係はとても複雑です。そこで、アメリカの研究グループが、長期介護施設(老人ホームのような施設)に入所している65歳以上の高齢者を対象に、「血圧の薬を減らすと認知機能がどう変化するか」という研究を行いました。その結果、降圧薬を減らしたグループでは、降圧薬を続けたグループよりも認知機能の低下が少ないことが示されました※。
研究では、アメリカの退役軍人の介護施設に入所している65歳以上の約1万2,600人を対象に調査が行われました。対象者は、入所時に高血圧の治療を受けている方です。参加者を2つのグループに分けました。
この2つのグループで、最大2年間、認知機能がどのように変化したかを調べました。(認知機能は「CFS(Cognitive Function Scale)」という指標で評価されました。)
この結果から、「血圧の薬を減らすことで、認知機能の低下を抑える効果が期待できる」ことが示唆されました。さらに、認知症がすでにある人でも同じような傾向がみられました。
この研究から、高齢者、特に介護施設に入っている方は、血圧の薬を減らすことで認知機能の低下を防げる可能性があると考えられます。ただし、すべての人に当てはまるわけではなく、その方の体調や状況に応じた対応が重要です。
高齢者の薬は、その人に合った最適な量や種類に調整することがとても大切で、認知機能を守るうえでもその工夫が役立つでしょう。今後は、患者さん個人の状態に合わせたきめ細かい治療がより重要になると考えられています。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。治療や薬の調整については、必ずかかりつけの医師とよく相談してください。
※JAMA Internal Medicine誌(2024年9月23日)の報告より