「軽度認知障害(MCI)」とは、年齢とともに少しずつ衰える「もの忘れ」とは異なり、将来的に認知症に進行する可能性がある状態です。最近の研究※では、MCIの進行を遅らせたり、認知機能を改善したりする方法として「運動」がとても有望だということが分かってきました。
中国の大連理工大学の研究チームは、過去に行われた世界中のたくさんの研究を集めて分析し、どのような運動がMCIの人にとって最も効果が高いのかを調べました。
研究の概要
この研究では、MCIの人を対象に運動の効果を調べた42の研究(合計2832人分のデータ)が使われました。特に注目されたのは「マルチコンポーネント運動」と呼ばれるもので、これは「有酸素運動(ウォーキングなど)」「筋トレ」「バランス運動」「柔軟運動(ストレッチ)」などを組み合わせて行うものです。
「マルチコンポーネント運動」について、以下のことが分かりました。
全体的な脳の働き(認知機能)の改善に効果あり
特に「マルチコンポーネント運動」は、認知症の予防や脳の健康維持に良い影響を与えることが分かりました。受け身で過ごす人と比べて、脳の働きに大きな差が出ていたのです。
判断力や実行力(実行機能)にも効果あり
実行機能とは「計画を立てて行動する能力」「状況に合わせて柔軟に考える能力」などを指しますが、この能力も改善することが分かりました。
どのくらい運動すれば良いか
特に効果的だった運動は以下の通りです。
また、判断力や実行力をさらに高めたい場合は、25週間以上(6ヵ月以上)続けるとより良い効果が得られることが分かっています。
今回の研究から分かることは、「週に数回、バランスよく体を動かすこと」が、認知症の予防や脳の健康維持にとても効果的だということです。特に「いろいろな種類の運動を組み合わせる」ことが大切とされています。
たとえば、
を無理のない範囲で取り入れて、週3回程度行うことが推奨されています。時間が短くても、こまめに行うことが大切です。
今回の研究では、「運動は脳に対して良い薬のような働きをする」と言われています。無理せずできる範囲で運動を習慣にして、認知症予防や健康寿命の延伸を目指していきましょう。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
※Frontiers in Psychiatry 誌 2024年9月12日より