睡眠が脳の健康、特に認知機能に重要な役割を果たしていることは広く知られています。しかし、「どれくらいの時間眠るのが脳にとって最適なのか」については、特にアジア人集団を対象とした十分な研究がありませんでした。
中国・北京中医薬大学の研究者らが、中国の中高年1万5,526人を対象とした大規模な横断研究(China Health and Retirement Longitudinal Study 2020)のデータを用いて、自己申告による夜間の睡眠時間と認知機能との関連を調査しました。
認知機能は、エピソード記憶、思考力、総合的認知機能の3つの複合指標を用いて評価されます。
分析の結果、睡眠時間と全般的な認知機能との間には、明確な「逆U字型」の関係があることが明らかになりました。つまり、睡眠時間が短すぎても、逆に長すぎても、認知機能が低下している傾向が見られたのです。
認知機能スコアが最も良好だったのは、1晩の睡眠時間が6時間、7時間、8時間の人々でした。 これに対し、1晩の睡眠時間が4時間以下(β=-1.85)、5時間(β=-0.55)、9時間(β=-1.78)、10時間以上(β=-3.01)と回答した人々では、いずれも認知機能との間に有意な負の相関関係(認知機能が低いこと)が認められました 。
特に悪影響が顕著だったのは「10時間以上」の長時間睡眠で、次いで「4時間以下」の極端な短時間睡眠でした。
この研究は横断的研究であるため、睡眠時間が認知機能低下の原因であるとは断定できません。逆の因果関係、すなわち認知機能が低下し始めた結果として、睡眠時間が極端に短くなったり、逆に長くなったりする(日中の活動性が落ちて寝床にいる時間が長くなるなど)可能性も考えられます。
しかし、著者らは「睡眠時間が短い場合でも長い場合でも、認知機能を注意深くモニタリングする必要があることを示唆している」と述べています 。
加齢に伴う認知機能低下のリスクを軽減するためには、極端な短時間睡眠や長時間睡眠を避け、「適度な睡眠」を促進することが、公衆衛生戦略として重要であると研究は結論付けています。ご自身の睡眠時間が適正範囲内にあるか、また睡眠の質はどうかを、日頃から意識することが脳の健康維持につながるかもしれません。
医師 菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Guo G, et al. JMIR Hum Factors. 2025;12:e72886.
参考文献: Goncalves NG, et al. Neurology. 2025;105;e214023.
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