私たちが日々何気なく口にしている飲み物が、将来の脳の健康、特にもの忘れや認知症のリスクに影響を与える可能性があることをご存知でしょうか。近年の研究で、砂糖や人工甘味料を多く含む飲料の摂取と、アルツハイマー病のリスクとの間に見過ごせない関連があることが明らかになってきました。今回は、複数の信頼性の高い研究結果を統合・分析した報告から、飲み物と脳の健康について解説します。
これまでに発表された複数の研究データを統合し、より精度の高い結論を導き出す「メタ解析」という手法を用いた最新の報告によると、砂糖を加えた甘い飲料を飲む量が多い人ほど、アルツハイマー病を発症するリスクが高まることが示されました。具体的には、摂取量が多いグループでは、少ないグループに比べてリスクが約1.5倍に上昇するという結果でした。
糖分の過剰摂取は、血糖値の急激な上昇と下降を招きます。このような血糖値の乱高下は、血管にダメージを与えたり、体内で「糖化」という老化を促進する反応を引き起こしたりします。これらの反応が脳内で起こると、脳細胞の機能が損なわれ、炎症が引き起こされることで、長期的に認知機能の低下につながると考えられています。日常的に飲む甘いジュースや加糖のコーヒーなどが、知らず知らずのうちに脳の健康を脅かす可能性があるのです。
それでは、「カロリーゼロ」や「糖質オフ」をうたった人工甘味料入りの飲み物なら安心なのでしょうか。今回の解析では、人工甘味料を使用した飲料の摂取についても調査が行われ、その結果は注目に値するものでした。
驚くことに、人工甘味料入りの飲料を多く飲む人も、アルツハイマー病のリスクが約1.4倍に高まるという、砂糖入り飲料とほぼ同程度の結果が示されたのです。カロリーがないにもかかわらず、なぜリスクが高まるのか、その明確なメカニズムはまだ解明されていません。しかし、人工甘味料が腸内細菌のバランスを変化させたり、脳の代謝や甘みを感じる仕組みに影響を与えたりすることで、間接的に脳の健康に悪影響を及ぼしている可能性が指摘されています。
認知症やもの忘れを予防し、長期的に脳の健康を維持するためには、日々の食生活、特に飲み物の選択が非常に重要です。今回の研究結果は、砂糖だけでなく人工甘味料についても、その摂取量に注意を払う必要性を示しています。喉が渇いたときには甘い飲み物ではなく、水やお茶などを選ぶ習慣が、未来の自分自身の脳を守るための大切な一歩となるでしょう。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Jouni N, et al. Sugar- and artificially-sweetened beverages and the risk of Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Aging Ment Health. 2025 Jun 13.