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頭痛やめまいを引き起こす熱中症が脳に与える認知症リスク

夏の厳しい暑さによって引き起こされる熱中症は、めまいや頭痛、吐き気などを伴う急性の疾患として知られています。しかし、その影響は一時的なものにとどまらず、将来の脳の健康、特に認知症の発症リスクにまで及ぶ可能性があることを示す研究結果が報告されました。

熱中症の経験と将来の認知症リスクの上昇

台湾で行われた大規模な健康保険データベースの研究では、過去に熱中症と診断された7万人以上の人々と、そうでない人々を長期間追跡し、その後の認知症発症率を比較しました。その結果、熱中症を経験した人は、そうでない人に比べて認知症を発症するリスクが約1.24倍高いことが明らかになりました。

このリスクの上昇は、熱中症の中でも特に重症である「熱射病」を経験した人に限定して分析した場合でも同様に見られました。熱中症の症状が回復した後も、脳には目に見えないダメージが残り、何年も経ってから認知機能の低下という形で現れる可能性が示唆されたのです。

脳のダメージ 熱中症がもの忘れを引き起こす仕組み

なぜ熱中症が認知症のリスクを高めるのでしょうか。その手がかりは、動物を用いた実験から得られています。ラットに熱射病を経験させたところ、記憶を司る脳の重要な領域である「海馬」において、神経細胞の損傷や変性、さらにはアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイド斑の蓄積が観察されました。

これは、異常な体温の上昇が脳に直接的なストレスを与え、脳細胞の死や炎症を引き起こすことで、認知症につながる病的な変化の引き金となっている可能性を示しています。つまり、熱中症は単なる脱水や体温上昇だけでなく、脳そのものを傷つける深刻な状態なのです。夏の暑さ対策は、その場の体調不良を防ぐだけでなく、将来の「もの忘れ」や「認知症」を予防するという、長期的な脳の健康を守る観点からも極めて重要であると言えるでしょう。

菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。

参考文献: Kuo WY, et al. Heatstroke is a risk factor for dementia: a nationwide population-based cohort study. Alzheimers Res Ther. 2024;16(1):145.