肥満が心臓や血管にさまざまな悪影響を及ぼすことは広く知られていますが、その影響は若い頃から始まっている可能性が、韓国の研究で示されました。韓国・成均館大学校の研究チームが、若年時(60歳以下)の肥満が、心臓の血管にカルシウムが沈着する「冠動脈石灰化」のリスクを上昇させることを報告しています。
冠動脈石灰化は、動脈硬化が進行しているサインであり、将来の心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患の重要な予測因子となります。この研究は、韓国の企業健診受診者とその家族、約18万人という非常に大規模なデータを横断的に解析したものです。対象者の平均年齢は42歳と若く、ほとんどが心臓病や脳卒中の既往がない人々でした。
研究では、アジア・太平洋基準に基づき、BMI(体格指数)25以上を「肥満」と定義し、CT検査で冠動脈の石灰化の有無を評価しました。
分析の結果、年齢や性別、さらには血糖値、脂質、血圧といった他のリスク因子を考慮しても、肥満の人はそうでない人に比べて冠動脈石灰化が陽性であるリスクが1.35倍高いことが分かりました。
さらに興味深いのは、年齢による影響の違いです。この関連は、「60歳以下」の集団で特に顕著に見られました(リスクが1.34倍)。一方で、「60歳超」の集団では、肥満と石灰化の間に有意な関連は見られませんでした。この結果は、特に東アジア人において、「若いうちの肥満」が、血管の老化、すなわち動脈硬化の進行を早める重要な危険因子であることを強く示唆しています。
では、この冠動脈石灰化のリスク上昇は、実際にどの程度の心筋梗塞や脳卒中のリスクにつながるのでしょうか。GLP-1受容体作動薬という減量効果のある薬の臨床試験データを見ると、心血管疾患の既往がない肥満の人が、実際に心筋梗塞や脳卒中といった重篤な心血管事象を起こす割合は、年間0.2%〜0.6%程度と、現時点ではそれほど高くはありません。
しかし、重要なのは、動脈硬化というプロセスは、自覚症状がないまま何十年もかけて静かに進行するということです。若い頃からの肥満は、その進行を確実に早める要因となります。現在の心血管事象発生率が低いからといって、決して安心はできません。若年期からの体重管理と健康的な生活習慣が、将来の深刻な脳梗塞や心筋梗塞を防ぐためにいかに重要であるかを、この研究は改めて示しています。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
参考文献: Sung DE, et al. Am J Cardiol, 2025 Mar 24. N Engl J Med, 2022; 387: 205-216. Nat Med, 2023; 29: 2909-2918.