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音楽療法が認知症の人の抑うつ症状を和らげる可能性

薬だけに頼らない認知症ケアとしての音楽

認知症のケアにおいては、記憶障害や判断力の低下といった中核症状だけでなく、それに伴って現れる抑うつ、不安、興奮といった行動・心理症状(BPSD)への対応が非常に重要です。薬による治療も選択肢の一つですが、近年、薬物を用いない非薬物療法の有効性にも注目が集まっています。その中でも「音楽療法」は、認知症の人の気分を高め、穏やかな時間をもたらす効果が期待されています。

オランダのライデン大学医療センターなどの研究チームが、これまでに世界15カ国で実施された30件の研究(対象者合計1,720人)のデータを統合・分析する「エビデンスレビュー」を行いました。このような大規模な分析は、個々の研究結果を統合することで、より信頼性の高い結論を導き出すことを目的としています。研究の対象となったのは、主に介護施設に入所している認知症の人々で、音楽療法が感情の安定や行動の問題にどのような影響を与えるかが調査されました。

気分の改善と行動上の問題の軽減に期待

この包括的なレビューの結果、音楽療法、特に5回以上のセッションからなる構造化された介入は、認知症の人の抑うつ症状を穏やかに改善する可能性があることが示されました。また、全体的な行動上の問題についても改善する可能性が示唆されています。

研究者らは、音楽療法が、単に音楽を聴くだけの他のグループ活動と比較しても、社会的行動を改善し、不安を軽減する可能性を指摘しています。音楽は、言葉でのコミュニケーションが難しくなった認知症の後期段階の人にとっても、感情に直接働きかけ、心を通わせることができる有効な手段です。 昔好きだった曲を聴いたり、一緒に歌ったりすることで、楽しかった記憶が呼び覚まされ、精神的な安定につながることがあります。

この研究を主導したJenny van der Steen氏は、「音楽療法は、薬を使わずに悲しみや不安を和らげる方法であり、薬物療法の代替として妥当で、より患者さん中心のケアである」と述べています。介護施設などのケアの現場で、個々人の状態や好みに合わせた音楽セッションを積極的に取り入れることが、認知症の人の生活の質(QOL)を高める上で重要であるという根拠を、この研究は強く示しています。

もちろん、音楽療法の長期的な効果や、在宅で介護を受けている人々への有効性については、さらなる研究が必要とされています。 しかし、音楽が持つ力を活用することは、認知症の人とその家族にとって、穏やかで豊かな時間を作り出すための一つの有効なアプローチといえるでしょう。

菊池清志

注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。

参考文献: van der Steen JT, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2025;3:CD003477.