アスピリンは昔から、血液をサラサラにする薬として知られ、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病(CVD)の予防に使われてきました。しかし最近の研究※では、心血管病がない高齢者にとっては、アスピリンを飲み続けても病気の予防効果がなく、逆に全体の死亡リスクや出血のリスクが高まることがわかってきました。
オーストラリアの研究チームは、アスピリンを飲み続けている70歳以上(人によっては65歳以上)の高齢者を対象に、「アスピリンをやめても大丈夫か」ということを調べました。この研究では、心血管病のない高齢者のデータを使い、アスピリンをやめた人(約5400人)と続けた人(約670人)を比べています。
アスピリンをやめた人では、その後3ヵ月から4年(48ヵ月)までの間に、心血管病のリスク(心筋梗塞や脳梗塞)、全体の死亡リスクは高くならなかったことがわかりました。さらに、アスピリンを飲み続けた人に比べて、大きな出血(胃や腸などからの出血など)のリスクが低くなることが示されました。
特に目立ったのは、アスピリンをやめてから1年後の死亡リスクが低くなっていたこと、また、3ヵ月後から出血のリスクが下がっていたことです。
この研究では、比較した人の数や、元々の健康状態に違いがあった可能性があることが指摘されています。つまり、アスピリンを飲み続けていた人は、もともと心臓や血管の病気のリスクが高かった可能性があるのです。
この研究結果からわかることは、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病がない70歳以上の高齢者では、アスピリンを無理に飲み続ける必要はないかもしれないということです。アスピリンをやめることで、出血のリスクが減る可能性もあります。
ただし、薬をやめるかどうかは自己判断せず、必ず主治医と相談してください。人によってはアスピリンが必要な場合もあります。医師と相談しながら、安全に治療を進めていくことが大切です。
菊池清志
注)本コラムは、情報提供を目的としたものであり、当院・医師の意見・方針を反映したものではございません。
※BMC Medicine誌2024年7月29日